税務コラム

2016年10月 4日 火曜日

地に落ちたノーベル経済学賞の権威



ことしのノーベル物理学賞に、数学の「トポロジー」という概念を利用して物質の特殊な状態を理論的に説明したアメリカの大学の3人の研究者が選ばれました。

日本人の3年連続でのノーベル物理学賞の受賞はなりませんでした。

ところで、全部で6部門あるノーベル賞の中で、「これは本当はノーベル賞ではない」といわれる賞があるのをご存じでしょうか?おまけにその賞の対象は、文学賞や平和賞は別として、「科学とは呼べない」という批判まで聞かれます。

それはノーベル経済学賞といわれてます。「ノーベル賞ではない」という意見は、他の賞の正式名称が「ノーベル物理学賞」「ノーベル化学賞」などであるのに対し、経済学賞は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」であり、支給もノーベル財団ではなく、スウェーデン国立銀行からでもあるからでもあります。

ことに厳しい批判を受けたのはノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズやフィッシャー・ブラック(1995年癌で死去、受賞は逃しました)が提唱したかつてサブプライム・ローン、リーマンショックで破たんした「金融工学」であるからです。

ショールズとブラックが提唱したブラック・ショールズ方程式とは、

「1種類の配当のない株と1種類の債券の2つが存在する証券市場のモデルである。さらに連続的な取引が可能で、市場は完全市場であることを仮定する。

そして、時刻 t における株価を St 、債券価格を Bt とし、

株価は dSt=σStdWt+μStd の確率微分方程式に従う。」

というものです。

無裁定価格理論とは、裁定取引が存在しないという仮定の下では、ある現在価格が未知の金融商品のT時点でのキャッシュフローを現在価格が既知の金融商品からなる自己資金充足的なポートフォリオで複製すれば、その複製したポートフォリオの現在価値を複製対象の金融商品の現在価格と見なせるという理論です。

複製するという言葉の意味は現在価格が既知の金融商品からなるポートフォリオで現在価格が未知の金融商品のT時点でのキャッシュフローを完全に再現するという事です。

つまり、このようなポートフォリオを組めばT時点において複製対象の金融商品と全く同じキャッシュフローを得ることが出来ます。このキャッシュフローを複製しているポートフォリオのことを複製ポートフォリオと言います。

無裁定価格理論の応用例として、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズによって導かれた上記ブラック-ショールズ方程式があります。

ヨーロピアンコールオプションは原資産となる資産の価格変動が幾何ブラウン運動に従い、利子率が時間を通じて一定である時に、完全市場の下でその原資産と債券によって複製可能である。この事から無裁定価格理論に基づき、彼らはヨーロピアンコールオプションの理論価格を導出することに成功しました。

この研究を端緒として無裁定価格理論はファイナンス理論において広く用いられるようになったといわれています。

つまり、株と債券を使ってヨーロピアン・コールオプションを複製することができるということです。もし、コールオプション価格と複製ポートフォリオの組成費用が異なれば、無限に資金を増やすことが可能になるオプション価格の理論値が得られることから、適正プレミアムの獲得や現実の取引価格との乖離が投資戦略として裁定取引上の利益目標となり得ると考えられました。

この点、実際にはテイルリスクに対する脆弱性などが指摘されています。そしてショールズが参加したロングターム・キャピタル・マネジメント破綻により現実的妥当性まで疑問視されたということです。(以上ウィキペディアより引用抜粋)

しかし、このブラック・ショールズ方程式はceteris paribus (セテリスパリブス). 「他の条件が等しいならば」という「与件」(上記でいう「完全市場」の前提のもとに「外部不経済=市場経済の不確実性」を排除したところに構築されたものであったためマイロン・ショールズとロバート・マートンが取締役会に加わっていたロングタームキャピタルマネジメント(略称:LTCM)による「ドリームチームの運用」は1997年に発生したアジア通貨危機と、その煽りを受けて1998年に発生したロシア財政危機によるデフォルト(債務不履行)を機に急速に破たんすることとなりました。

その後もこの金融工学理論が今度は住宅ローン市場へ応用されたため起きたのが、いわゆるサブプライム・ローン問題です。

この結果、ノーベル経済学賞の権威は地に落ちてしまったわけです。

物理学や化学のような純粋自然科学は、自然界を対象とし、実験や観測技術によって、その成否が客観的に検証されるシステムですが、経済学の対象は、あくまでも「人間の行動」についての学問です。

この点で、心理学やそれを援用した「行動経済学」なども「人間の行動」を対象とした学問領域として生まれてきましたが、そこには「数学理論」では検証しきれない人間の主観性が介在している点で、「科学ではない」との揶揄がなされているのです。

もっとも「人間の意思」について時空間を通じて、「すべては自然物理法則に帰するのか?」といったテーマは現在進行形で科学界から問われている大きな命題でもあります。

そのひとつの科学的アブローチの答えが、近年、もてはやされている「脳科学」であり、それに匹敵対峙するのが従来の「歴史」や「人類学」といったジャンルからのアプローチといえましょう。

今年の、NHK大河「真田丸」はなぜか初回から欠かさず観ています。

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリをlivedoorクリップに登録
このエントリをBuzzurlにブックマーク

投稿者 大埜治仁税理士事務所